はじめに:教えてくれないのは「悪意」じゃない
新人研修で戸惑ったこと、それは「思ったより何も教えてくれなかった」こと。
・指示が曖昧
・「やってみて」と丸投げ
・マニュアルが古くて意味不明
そんな状況に直面して、「自分が悪いのかも」と悩む新人も多いでしょう。しかし実際は、“教えない”のではなく、“教え方が見えていない”だけなのです。
この記事では、新人が研修や配属後に感じる「教えてくれない」の正体と、それにどう対応すればいいかを、実体験やエピソードを交えながら深掘りしていきます。
1. 「これくらい分かるよね?」の無言の圧力
◆ 先輩の“常識”は新人の“未知”
先輩にとって当たり前のことも、新人にとっては初めての情報。例えば、
- 会議の資料を何部印刷すべきか?
- 上司には紙で渡す?メールで送る?
- 会議室は何分前に入って準備?
これらはマニュアルに載っていない“空気のルール”です。
例:
配属1週目、Aさんは会議資料を全員分印刷して、デスクに配布。しかし、後から「役員用はクリアファイルに入れておくのが常識」と叱られてしまいました。
先輩にとっては当然でも、新人にとっては未知の世界。ここに“説明されないギャップ”があるのです。
2. 「やってみて」が不安すぎる
◆ 丸投げ指示は、失敗の不安しかない
「とりあえずやってみて」と言われた瞬間、心の中はこう叫びます。
「何を?どうやって?どこまで??」
新人が失敗を恐れるのは当然です。なのに全体像もなく、目的も曖昧なままタスクを投げられると、
- 何が正解か分からない
- 質問しづらい
- 判断できず止まる
という悪循環に。
例:
新人のBさんは「この取引先のデータをまとめて」とだけ言われ、どういうフォーマットで、誰に提出するのか不明なまま作業。やっと完成させたが、後から「パワポで作って」「数字の単位が違う」と修正の嵐。
3. マニュアルがあるのに、意味がない?
◆ 実態と合っていない古い情報
マニュアルがあるから安心…と思いきや、そのマニュアルが時代遅れの場合も。
- UIが変わっている
- 手順が現場のやり方と違う
- 必要な項目が抜けている
例:
Cさんはマニュアルを見ながら請求書を作成。しかし、実際はシステムが更新されており、画面が全然違ってパニックに。
先輩に聞くと「そのマニュアル、3年前のだから」とあっさり。なぜ放置されていたのかという疑問だけが残ります。
4. 「聞いてくれればよかったのに」の壁
◆ 聞きづらい空気がある職場
新人からすれば、質問するのにも勇気が要ります。
- 先輩が忙しそう
- 何度も聞いて怒られた
- 「自分で考えて」と言われた
こんな経験が重なると、
「また聞いたら迷惑かも…」
というブレーキが働いてしまいます。
例:
Dさんは資料作成中に疑問があったが、先輩がずっと電話対応していて声をかけられず。結局、自己判断で進めてミスをしてしまい、「なんで聞かなかったの?」と叱られてしまいました。
5. 「自分で考えろ」は思考放棄のサイン?
◆ 放任と成長の境界線
「自分で考えてみて」と言うのは、成長を促す言葉でもあります。しかし、
- 情報ゼロで丸投げ
- 判断軸を示さない
- フォローもない
こんな状態では、ただの“放置”です。
例:
Eさんはクレーム対応のテンプレを知りたくて相談。しかし、「自分の言葉で考えて」とだけ言われ、対応後に「言い回しが悪い」と指摘され、ショックを受けました。
🔍 なぜ「教えてくれない」のか?背景を読み解く
◆ 教える側も“初心者”である
新人研修やOJTは、教える人が必ずしも教育のプロとは限りません。むしろ、
- 去年自分も新人だった
- 忙しさで余裕がない
- 教え方を習っていない
という場合が多く、「教える力」の育成自体がされていない企業も多いのです。
◆ 「言わなくてもわかる」文化
日本の職場では、阿吽の呼吸や空気を読む力が重視されがち。「言葉で伝える」が軽視され、結果的に新人が置き去りになることも。
✔ どう乗り越える?新人側の工夫とコツ
◆ 1. 質問は「前提+選択肢」で聞く
ただ「分かりません」ではなく、
- 「ここはAとB、どちらが良いですか?」
- 「マニュアルのこの部分の解釈は合っていますか?」
のように、相手が答えやすい質問にするのがポイント。
◆ 2. “メモ”は経過+判断+理由を
何をやったかだけでなく、
- なぜそう判断したか
- どこでつまずいたか
- 誰に聞いてどう答えられたか
を書いておくと、あとから振り返ったときに役立ちます。
◆ 3. フィードバックは「仮説ベース」で求める
「これで合ってますか?」と聞くより、
「こういう意図でAの方法を選びましたが、他に適切な選択肢はありましたか?」
のように、自分なりの考えを添えると、指導側も「育ってる」と感じやすいです。
💡 会社や先輩にお願いしたいこと
◆ 「先輩の常識」を“言語化”しておいてほしい
フォーマット、資料作成のクセ、上司への気遣いなど、暗黙の了解を「小さなTips集」として残しておくと助かります。
◆ 教えることに“正解”はないという認識
人によって理解力、習得スピードは違います。
- 何度も聞かれる=覚えが悪い ではない
- すぐ出来る=教え方が上手とは限らない
こうした誤解をなくすには、会社全体で「教える文化」を見直す必要があります。
おわりに:「教えてくれない」のではなく「伝わっていない」だけ
新人が「何も教えてもらっていない」と感じるとき、先輩や職場側には「説明したつもり」「見れば分かるはず」という意識があることがほとんどです。
つまりこれは、伝えた側と受け取った側の“ズレ”の問題。
このズレをなくすには、
- お互いが「当たり前」を疑うこと
- 質問しやすい空気を作ること
- 成果より“経過”を評価すること
が必要です。
新人の皆さん、「教えてくれない」と悩むより、「どうすれば伝わるか」に視点を変えることで、仕事の理解度も自信もぐんと上がります。
そして先輩の皆さん、「ちゃんと教えているはず」と思った時こそ、相手の立場に立って見直してみてください。
“教える力”は、職場の空気を変える力でもあります。