はじめに|見られていない不安はなぜ生まれる?
「最近、部下があまり元気がない気がする」「成果を出しても反応が薄いとモチベーションが下がる」といった悩みを持つ上司の方は少なくありません。
その背景には、“上司から見られていない”という部下の不安が潜んでいることがあります。仕事の内容をしっかりチェックすることだけが「見る」ことではありません。部下の変化や努力を「ちゃんと見ているよ」というメッセージをどう伝えるかが、信頼関係を築くうえで重要なのです。
この記事では、部下との信頼関係を強化する「声かけ」の技術について、具体的なシチュエーションや言葉の選び方を交えて紹介します。
なぜ「見られている感覚」が大切なのか?
部下が求めているのは“結果評価”だけじゃない
「成果が出ていればそれでいいでしょ」と思ってしまうのは危険です。
人は評価されたいという承認欲求を持っており、これは報酬や昇進といった目に見える評価だけでなく、日々の“ちょっとした気づき”によって満たされることが多いのです。
たとえば、こんな一言が信頼を育てます。
「あの提案書、前より構成が分かりやすくなっていたね」
「最近ミスが減ってきてるよね。工夫してる?」
こうした“変化”や“工夫”を見てくれていることが伝われば、部下は「自分のことをちゃんと見てくれている」と感じ、安心感とやる気が生まれます。
ありがちなNG対応:こんな言い方は逆効果
「がんばってるね」だけでは足りない
たしかに「がんばってるね」という言葉自体は悪くありません。しかし、それだけだと「上っ面だけの言葉」「とりあえず言ってるだけ」と受け取られてしまうことがあります。
部下に響くのは、「どこが」「どう」頑張っているのかを具体的に伝えることです。
「言わなくてもわかってるよ」は危険
「ちゃんと見てるから」と言いつつ、実際に言葉でのフィードバックがないと、部下は見られていないと感じます。
また、「言わなくてもわかるでしょ」というスタンスは、信頼というよりも“丸投げ”の印象を与えてしまいます。
忙しさを理由にリアクションを省かない
多忙な中でも、ほんの一言をかけるだけで印象は大きく変わります。時間の長さではなく、タイミングと内容が鍵です。
「ちゃんと見てるよ」が伝わる声かけ5選
① 「前より○○が上手くなってるね」
変化や成長を具体的に指摘することで、日々の努力が見られていると実感できます。
例:
「報告の仕方が、前よりもスッキリして聞き取りやすいね」
② 「○○の対応、助かったよ」
貢献に対する感謝を直接伝えることで、自分の仕事がチームにとって意味あるものだと認識できます。
例:
「昨日のトラブル時の冷静な対応、すごく助かった」
③ 「○○の件、自分なりに工夫してたよね?」
表に出にくい工夫や努力に触れることで、内面も見てくれていると感じてもらえます。
例:
「メールの文面、すごく読みやすかった。時間をかけた?」
④ 「○○が気になってたけど、どうだった?」
部下の関心や懸念に寄り添う姿勢を見せることで、信頼感が深まります。
例:
「プレゼン、緊張してたって言ってたけど、やってみてどうだった?」
⑤ 「今日は顔色がいいね」などの“変化”に反応
仕事の内容に限らず、コンディションや感情の変化にも触れると、人としての関心を示せます。
例:
「ちょっと元気ない?何かあった?」
ケーススタディ:ある部下と上司のすれ違い
🎭 登場人物
- 上司:佐藤さん(40代・チームリーダー)
- 部下:田中さん(20代・入社2年目)
📅 シチュエーション
田中さんは、新しい業務を任されて1ヶ月。成果は出しているものの、モチベーションが明らかに落ちていた。
佐藤さんは「順調にやれてると思ってたけど…」と意外に思い、面談を設ける。
🗣️ 会話
佐藤さん:
「最近、仕事のスピード上がってきたよね。特に報告書のまとめ方、すごくよくなったと思うよ」
田中さん:
「…ありがとうございます。でも、何も言われないから、ちょっと不安で」
佐藤さん:
「そうだったんだ。言葉にしなくても伝わってると思ってたけど、ちゃんと伝えるようにするね」
その後、佐藤さんは毎週の1on1で、小さな成果にもフィードバックを入れるようになり、田中さんの表情は明るくなっていった。
「ちゃんと見てるよ」を形にする工夫
🔹 観察の“習慣化”
1on1や日報レビューを通じて、意識的に「変化」や「成果」を観察する習慣を持つことが大切です。
🔹 フィードバックの「メモ」
気づいた点は、後から忘れずに伝えるためにメモしておくと便利です。
🔹 Slackやチャットで気軽に声かけ
直接の会話が難しい場合でも、チャットで「今日の○○、良かったよ」などの一言を入れると効果的です。
部下が上司に求めているものとは?
調査によると、若手社員が上司に最も求めているのは「自分のことを理解してくれる姿勢」「成長に関心を持ってくれること」だとされています。
これは特別なスキルが必要なわけではありません。日々のちょっとした「気づき」「声かけ」「興味の示し方」が、そのまま信頼貯金になっていくのです。
おわりに|「伝える」努力が関係を変える
「ちゃんと見てるよ」は、言葉にして初めて伝わります。
どんなに思っていても、伝わっていなければ“ない”のと同じ。だからこそ、ほんの一言でも「ちゃんと見てる」というメッセージを意識的に届けることが大切です。
忙しいからこそ、短くてもいい。ポイントだけでもいい。それでも、積み重なった声かけは、やがて大きな信頼につながります。
上司としての「見ているよ」のひとことが、部下にとっての「安心して働ける職場」の第一歩になりますように。
💡まとめ:今日から使える“見てるよ”の声かけフレーズ
- 「前より○○が上達してるね」
- 「○○の対応、すごく助かったよ」
- 「この工夫、考えたんだね?」
- 「○○の件、気になってたけど大丈夫だった?」
- 「今日は表情が柔らかいね」
これらのひと言が、明日からの職場を少し優しく変えていきます。