信号機といえば、誰もが毎日目にする存在です。車を運転する人はもちろん、歩行者にとっても信号機は交通ルールを視覚的に伝える重要なインフラです。
ところで、地域によって「縦型」と「横型」があることに気づいたことはありませんか? そしてなぜそのような違いがあるのでしょうか?
この記事では、信号機の縦型・横型の違いやそれぞれのメリット、視認性の工夫、さらに形状がもたらす心理効果や安全性の観点まで詳しく解説します。
信号機の基本構造と役割
まず信号機の基本的な構造から押さえておきましょう。車両用の信号機は原則として以下の3つの色で構成されています:
- 赤:止まれ
- 黄:注意
- 青(緑に見える):進め
この3色の順序と表示によって、交差点や横断歩道での動きを制御する役割を果たしています。さらに、視覚に頼るこの設計は、色だけでなく配置や点灯方式によって情報を正確に伝えるように工夫されています。
そしてその配置に関わるのが、「縦型」と「横型」の違いなのです。
縦型信号機とは?
特徴
縦型信号機は、信号の灯火(ランプ)が縦一列に並んだタイプで、上から順に赤・黄・青となっています。
採用されている地域
- 北海道・東北地方・北陸地方などの積雪が多い地域
メリット
- 雪が積もってもランプが隠れにくい
- 縦に配置することで支柱が短く済み、構造的に強度を保ちやすい
- 省スペースで設置できる
特に雪が多く降る地域では、信号機のフード(庇)部分に雪が積もると、ランプが見えにくくなるという問題があります。しかし、縦型信号機は角度があるため、雪が自然に滑り落ちやすく、可視性が保たれます。
また、視線の上下移動で色の違いが把握できるため、視覚的にも認識しやすいという特長があります。
横型信号機とは?
特徴
横型信号機は、赤・黄・青の順で横に並んだタイプで、都市部や温暖な地域で多く採用されています。
採用されている地域
- 関東・関西・九州・中部地方などの積雪が少ない地域
メリット
- 一度に複数の車線や歩行者に信号を伝えやすい
- 照明や標識と一体化しやすく、都市景観に馴染みやすい
- 補助信号や矢印信号の追加がしやすい
都市部では、交差点の構造が複雑であるため、歩行者・車・自転車それぞれに対応する複数の信号をまとめて見せられる横型信号機が便利とされています。
さらに、信号の位置と標識を並べて配置できるため、運転者が一目でルールを把握できるという利点もあります。
なぜ統一されていないのか?
信号機の形状は、実は道路状況・天候・地域の特性に応じて最適化されているのです。そのため、日本全国で一律の形に統一することは難しいとされています。
- 地域の気象条件(積雪・風・日照など)
- 道路幅や建物配置
- 電線・街路灯とのバランス
たとえば、狭い交差点や視認性が悪い場所では縦型のほうが見やすく、広い幹線道路や大型交差点では横型が適していると判断されます。
つまり、「縦か横か」はその場所の交通環境に応じたベストな選択ということなのです。
色覚に配慮した配置と形状の工夫
信号機では色覚に障害のある方にも配慮して、色の配置順序が必ず一定であることが大切です。
- 縦型:上から赤 → 黄 → 青
- 横型:左から赤 → 黄 → 青
これにより、仮に色が判別しづらい方でも、「位置」で信号の意味を理解することができます。
また、近年では以下のような対策も行われています:
- LED信号の導入(明るさと色の鮮明化)
- 青信号をより青緑寄りに調整
- 反射防止処理や眩しさ対策
- 補助信号や矢印表示の導入
信号機は単なる「色の点灯」ではなく、配置・形・明るさ・見えやすさまでトータルで設計されているのです。
海外の信号機事情:縦型・横型の例
世界各国でも信号機の形状は地域により異なります。
アメリカ:
- 縦型が多く採用されているが、地域により横型も存在
- 縦型でも補助表示をつけて色の意味を明示
ヨーロッパ:
- 横型が主流(特にドイツ・フランス)
- 赤信号が大きく表示されるケースも
台湾・韓国:
- 日本と似た縦型・横型の混在
いずれも、「標準化」ではなく、地域の生活環境に適応したデザインが重視されています。
なぜ「青信号」は青と呼ばれるのか?
信号の色に関して、多くの人が疑問に思うのが「なぜ緑色なのに“青信号”と呼ぶのか?」という点です。
これは日本語の色彩文化に由来しています。かつての日本語では、青は「青=あお」として広い意味で緑も含んでいました。
例:
- 青リンゴ(実際は緑)
- 青菜(緑の葉野菜)
- 青信号(緑のランプ)
また、かつて使われていた旧式の信号灯では、実際に青みがかった緑色が採用されていたこともあり、呼称として定着したのです。
現在では、色覚への配慮や国際基準に基づき、やや青寄りの緑(青緑色)が採用されているため、「青信号」という呼び方との整合性も取れています。
信号の見落としを防ぐ工夫
信号機は命に関わる重要な情報を伝えるものであり、その見落としを防ぐために以下のような工夫がなされています:
- 高輝度LEDによる視認性の向上
- 日差しや逆光に負けないフード設計
- 冬季にはヒーター付き信号で雪を溶かす
- 歩行者信号には音声案内や点滅表示
- 道路標示と連携した停止線・ラインの明示
また、ドライバーが「赤信号なのに気づかなかった」という事態を防ぐため、信号灯の設置角度や高さも緻密に計算されています。
特に高齢者ドライバーや外国人観光客にも分かりやすく設計することで、交通事故の未然防止につながっています。
歩行者用・自転車用信号機の形状とバリアフリー設計
信号機は車両用だけでなく、歩行者用・自転車用にもさまざまな工夫が凝らされています。これらは単に「ミニサイズ版」ではなく、使用者の行動特性や安全性に合わせて独自の設計がなされています。
歩行者用信号機
- 主に「人型」のピクトグラムを用い、赤=停止、青=進行を表現
- LED化が進み、明るさ・耐久性が向上
- 高齢者や子どもでも見やすいよう、光の拡散角度が広めに設計
また、近年ではバリアフリー対応として、音声案内機能が多くの都市部で導入されています。
- 鳥のさえずり音やメロディ音で青信号を通知(例:「カッコウ」「ピヨピヨ」)
- 点字ブロックと連携して誘導
- 信号機の支柱に「押しボタン式」で視覚障がい者が操作しやすい工夫
これらの設計は、視覚・聴覚・認知機能など多様な人のニーズに配慮した「ユニバーサルデザイン」の一例です。
自転車用信号機
- 車両用と区別するため、小型の「自転車マーク入り」信号が採用
- 自転車専用レーンと連動し、安全な通行タイミングを確保
- 歩道と車道の中間的な存在として、特別な信号設計が求められる
特に近年は自転車利用の増加に伴い、自転車用信号の整備が進んでおり、都市ごとに工夫が見られます。
各都道府県による導入方針の差や設置基準の違い
信号機の設置・運用は、基本的には警察庁の管轄ですが、実際の導入判断は各都道府県の公安委員会や地方警察が行います。
そのため、信号機の種類や配置、音声案内の有無などに地域差が生じています。
地域による違いの具体例
- 北海道・東北地方:積雪対策のため縦型が圧倒的に多い。ヒーター付きLED信号の導入が進む。
- 東京・大阪などの都市部:横型信号が主流。バリアフリー対応の音声案内信号が多く、外国人向けピクトグラム付きも導入。
- 中山間地域や観光地:景観との調和を意識したデザイン信号や小型化された信号が設置される傾向。
このように、道路構造・通行量・利用者層・景観とのバランスを考慮し、地域に最適な形で信号機が運用されているのです。
また、自治体によっては独自のガイドラインや設置基準を持っているケースもあり、たとえば「小学校周辺では視認性強化型の信号機を優先的に導入する」といったポリシーも存在します。
こうした地方の判断が尊重されるのは、日本の交通行政が「現場目線」を大切にしている証ともいえるでしょう。
まとめ:縦型・横型の違いは“最適化”の証
信号機の形には、地域の自然環境、交通状況、視覚的配慮といったさまざまな要因が反映されています。
- 縦型:雪に強く、省スペースで視線誘導がしやすい
- 横型:情報量が多く都市部に適応、視野に入りやすい
どちらが優れているというよりは、「その場所に合った最善の形」が選ばれているのです。
普段あまり意識することのない信号機の形ですが、その裏には多くの工夫と配慮が詰まっています。
次に信号を見るときは、「なぜこの形なのか?」という視点で観察してみてください。
そこには、交通安全を支える静かなデザインの知恵が詰まっているのです。