はじめに|図書館でのひとこと
大学の図書館。ナオトとサチコがレポート用の資料をコピーしていた。
ナオトがふとつぶやく。
「なんでコピー用紙って、どこでもA4なんだろうな。ノートはB5だったし、海外はレターサイズって聞いたことあるのに」
確かに、学校の授業で使うノートはB5、ポスターや掲示物はA3。なのに、いざ社会に出るとビジネス書類はほぼA4に統一されている。
サチコも首をかしげる。
「言われてみれば不思議だね。どうしてA4だけが“主役”になったんだろう」
この素朴な疑問が、二人を「紙のサイズの秘密」へと導いていく。
📐 秘密は“√2の比率”にある
実は、答えは単純だが奥深い。A4を含むA判用紙は、縦横比が√2:1になっている。
A判の基準はA0サイズ(841×1189mm)。縦横比を計算すると 1189 ÷ 841 ≒ 1.414。これは数学でよく出てくる√2にほぼ等しい。
この比率のすごさは――
- 半分に切っても同じ比率を保つ
- 倍にしても崩れない
- コピーや印刷で拡大縮小してもレイアウトが乱れない
たとえば、A4サイズのレポートをA3に拡大コピーすると、文字やレイアウトがそのまま拡大される。逆にA5に縮小しても、要素が小さくなるだけで形が崩れない。
ナオトは驚いた顔で言った。
「なるほど!だからA4で作れば、そのままA3ポスターにしたり、A5冊子にしたりできるんだ」
さらにサチコがうなずく。
「印刷屋さんとか役所とか、いろんな人が同じ比率でやり取りできるのは便利だよね」
数学的な美しさと実用性が、A4を世界中で“使いやすいサイズ”にしてきたのだ。
✨ 他のサイズとの違い
では、なぜアメリカや日本の学校では違うサイズが使われているのか?
アメリカのレターサイズ
アメリカでは、レターサイズ(8.5×11インチ/216×279mm) が標準。
A4(210×297mm)と比べると、横に少し広く、縦が短い。
一見すると大差はないが、縦横比は1.29。つまり√2比率ではない。
そのため、拡大縮小を繰り返すとレイアウトが崩れたり、余白がズレたりする。
ナオトは「履歴書とか契約書を国際的にやり取りするとき、微妙にサイズが違うと困るんだな」と実感。
サチコも「パンチ穴が合わなかったり、ファイルに入らなかったり…細かいけど地味にストレスなんだよ」と苦笑した。
日本のB5文化
一方、日本の学校ではB5(182×257mm)がノートの標準サイズ。
これは日本独自の伝統的な紙の寸法(美濃紙など)を基準にしており、子どもの机やランドセルに収まりやすい という理由で普及した。
「だから小学生のときから慣れてるのはB5。でも社会に出ると一気にA4。新人が混乱するのも当然だな」とナオトは笑う。
教育現場では「子どもにとっての使いやすさ」が優先され、社会に出れば「世界規格としてのA4」が主流になる――。ここに日本人の多くが感じるギャップがあるのだ。
🏛 歴史の中での選択
A4の地位を固めたのは、20世紀初頭のドイツ工業規格(DIN)。
彼らは紙の比率を数学的に整理し、√2比率をもつA判サイズを標準化した。
戦後、この考え方はヨーロッパを中心に広まり、ISO(国際標準化機構)が ISO 216 として正式に採用。
これにより、ヨーロッパ、アジア、アフリカ諸国ではA4が一気に主流となった。
アメリカやカナダは独自のレターサイズを守り続けているが、世界全体ではA4が圧倒的多数派。
国際的な研究論文、ビジネス契約、行政書類などは、基本的にA4で統一されている。
サチコは感心して言った。
「ただの紙のサイズじゃなくて、国際規格にまで育ったってすごいね。紙にだって“グローバル基準”があるんだ」
📚 A4が日常にもたらす便利さ
A4の合理性は、実際の日常生活でも実感できる。
- 就職活動:履歴書やエントリーシートはA4で統一。フォーマットがそろっているから提出する側も受け取る側も安心。
- 仕事の書類:企画書や契約書、会議資料はA4。コピーやスキャン、PDF化も効率的。
- 学習や教育:プリント、テスト用紙、配布資料。A4ならまとめてファイリングでき、整理しやすい。
- 趣味や生活:プリントしたレシピや旅行プラン、ハンドメイド作品の型紙など、A4が基本になっている。
ナオトは「A4って、もはや“紙の共通言語”だな」と感心する。
サチコも「確かに。スマホで見てるPDFもだいたいA4サイズだよね」と頷いた。
🔚 まとめ|A4は“偶然”ではなく“必然”
コピー用紙がA4なのは、単なる慣習や偶然ではない。
√2の比率という数学的な合理性があったからこそ、国際規格として採用され、社会の標準になったのだ。
- 半分にしても倍にしても形が崩れない
- コピーや印刷で無駄が出ない
- 世界中で共通利用できる
ナオトは満足そうに言った。
「A4って、便利さの裏にちゃんと理由があったんだな」
サチコも笑ってうなずく。
「数学と歴史が重なって“世界の共通サイズ”になったなんて、紙1枚がすごく特別に思えるよ」
次にコピーをとるとき、ただの用紙に見えるA4の背後にある「設計思想」と「歴史の選択」を思い出してほしい。
そうすれば、ありふれたコピー用紙も少しだけ誇らしく見えてくるはずだ。